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「ピンクリボンデザイン大賞」のデザインについて

こんにちは、北京五輪の熱が冷めやらぬミーハーのDesign Production NEONEの藤本です。

先日からネットで話題になったようですが、乳がん検診の受診を呼びかける「ピンクリボンデザイン大賞」のデザインが炎上し、ついにテレビでも取り上げられました。

というかテレビを見て初めて知ったのですが。笑

デザイナーの観点からちょっと書いてみようかなと思います。

1 「ピンクリボンデザイン大賞」とは?

日本対がん協会が主管するデザインコンペで、
「乳がんの早期発見の大切さを伝え、検診受診を呼びかけるとともに、正しい知識を習得していただき、ご自分に合った適切な行動を起こしていただくことを目的に実施しております。」というものです。
今回のコンペは17回目のようですが、ピンクリボンフェスティバルとして2003年から始まってるので活動としては19年目のようです。

2 今回の焦点

今回受賞されたポスターはこんな感じです。
福引でピンクの玉が出てきて「まさか、私が」とキャッチコピーがありますね。

ふむ、伝えたいことはシンプルで明確ですね。



ポスターを印象付けさせるにはデザインの骨組みが大きく分けて2つになります。

1つはキャッチコピー。

今回で言うと「まさか、私が」の部分。

2つ目は図柄。

今回で言うと「福引のイラスト」の部分。

今回は乳がんになる確率を福引の当選のように見せた図柄に批判が殺到しました。

「乳がんである確率」を「福引で当選する確率」になぞらえて表現してますが、このような別な身近なものに例えて伝えたいことをアピールする、というのはデザイン業界では定石とされている手法で今回は「福引」で表現してますが、誰しも一度は経験のある(目にしたことがある)ことなので、比較的分かりやすい例えであることは間違い無いです。

作者は
「何気なく参加した商店街の福引きで当たりが出た時の『まさか』という情景を思い描き、胸に見立てたガラガラ抽選器をデザインしました。何でもないような日常の中に『まさか』が隠れているかもしれないことを伝え、多くの人が乳がん検診を意識するきっかけになればと願っています」
と製作意図を説明しています。

発想やアイデアとしてはデザイナーとして理解できるし分かりやすいとは思います。

ただ、喜びの「まさか!」と悲しみの「まさか…」は感情のベクトルが正反対なので、このデザインだと間違った伝わり方をする恐れがあります。


特に「ふくびき」は漢字にすると「福引」
「福」を「引く」という行為になぞらえてしまうと、乳がんになることも「福」を「引く」と思えてしまいます。
どう考えてもがんに罹ることは「福」ではないですよね。

企画段階でもしこのアイデアが浮かんだんとしても、受け手の視線で見たら「これだと、乳がんに当選した!とか乳がんでラッキーみたいなイメージになりそうだな」と気づきそうです。

最近少数の反対意見ですぐ謝罪したり方針を変えてしまう企業も多く個人的にはそういうのは気にせず貫いて欲しいと思うタイプなのですが、今回は批判が増えても仕方ないのかなと思える内容でした。

3 デザインの役割

ポスターはいかに視線を止めて印象付けさせるかが重要となります。

特にがん検診は積極的に好まれるものではないので、そこを「検診に行こう」「検診に行かなきゃ」と行動を起こさせることがデザインの役割です。

今回これだけ炎上してしまいましたが、もし今まで無関心だった人が今回の件で検診するようになれば、批判の内容は別として皮肉にもデザインとしては一応大成功です。

いろんなデザインはできるが万人にウケるデザインはできない。
いろんな伝え方はできるが万人に理解される伝え方はできない。


実に難しいですがこれが現実なので、何を作っても批判する人が出るのは間違い無いです。

無難に作っても「インパクトがない!」って批判が出るし、このポスターもおそらく「いいじゃん!」って思う人もたくさんいると思います。

ただ先ほど書きましたが今回のデザインに関しては喜びの「まさか!」と悲しみの「まさか…」は感情のベクトルが正反対でふざけてるように見えてしまう恐れがあるので、このようなかたちで炎上してしまうのはある程度想定できたと思うのですが、なんで大賞に選ばれたんですかね。。笑

4 コンペ至上主義による目的の破綻

今回は「ピンクリボンデザイン大賞」というコンペで選ばれたものでした。

コンペは誰でも応募できて審査員の目に留まり選ばれたら賞金が貰えますが、賞を取るために奇抜なキャッチコピーや奇抜なデザイン、高度なクオリティを応募者が競います。

いかにインパクトに残るキャッチコピーを作るか。
いかにギミックを効かせたデザインにするか。
いかにウィットに富んだアイデアを練り込むか。
そして、いかに審査員の目に留まるようにするか。

あれ?目的ってなんでしたっけ?

今回では言えばいかに「乳がん検診」が大事かを伝え、受診を促すかがデザインの目的ですよね。

でもコンペにすることで目的は賞を取ることに変わります。

賞金欲しさや名誉欲しさが第一となり、応募者もいかに奇抜にするかでしか見ていないような気がします。

審査員もちゃんとした最終的な目的を見据えた審査がなされているならいいのですが、単にデザインが面白いから、発想が奇抜だからだけを見て、目的や倫理観が二の次になっているのであれば残念でなりません。
もちろんコネで選ばれるのは論外です。
(以前、佐野研二郎さんの五輪エムブレム問題で審査員がお友達ばかりで大問題になりましたね。笑)

私も駆け出しの頃はこういったコンペにたくさん応募して実際に受賞されたりノミネートされたりとありましたが、最終的な目的を忘れ、いかに面白いデザインを追求するかばかりを考えていたように思います。

ぶっちゃけこの「ピンクリボン大賞」のデザインも過去に考えたこともあります。
結局頭の中で浮かんだデザインがうまく表現できなかったので応募こそ断念しましたが。。

その後読んだ本で「賞を狙うな」という教えがあり、ハッとさせられてから、仕事が忙しくなったこともあるのですが、基本的にコンペに参加するのはやめました。

今回の「ピンクリボンデザイン大賞」は乳がん、乳がん検診というとてもデリケートな内容なので、こういった賞レースで競わせるのではなく、ちゃんと目的を達成できるような制作会社に依頼をし啓発する方が正しいやり方なのではないかなと思います。

大型コンペはデザイン力は向上するかもしれませんが本来の目的を見失っては本末転倒ですね。

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Design Production NEONE

藤本洋史藤本洋史

藤本洋史

グラフィックデザイナー兼アートディレクター

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